リレーインタビュー「患者+IT:第2章」

リレーインタビュー「患者+IT:第2章」

杉山博幸(すぎやまひろゆき)氏

株式会社メディエイド 代表取締役

1995年慶應義塾大学法学部法律学科卒。1994年南カリフォルニア大学大学院コミュニケーション・経営学修士課程修了。
プライス・ウォーターハウス・コンサルタント(株)(現日本IBM㈱)、マイクロソフト(株)、慶應義塾(医学部・大学病院)、(株)ケアネット等を経て現職。

2.小さな歯車から、2.0へのイノベーション

石村: 自ら行動して情報を取り込んでいくことは、もしかすると日本人がいちばん不得意なところなんじゃないかなと思うんですね。大多数はそこをどこかに肩代わりしてもらって生きている。そういう中で、杉山さんのやっていらっしゃる活動が非常に役立っていますね。いわゆる自立の支援ですよね。本来は生き方自体を自分で勝ち取っていくべきなんでしょうが、病気を抱えて生きていかなければいけないとなったときに、まさに自分の生き方を自分で選択していかなければならなくなる。社会的にもだんだん意識が変わっていく過渡期なんじゃないでしょうか。今ヘルスケアというところでもまさにHealth2.0(※)へのイノベーションがおこっていますね。でも私は大きな組織ではイノベーションは難しいと思っています。
杉山: 社会自体が変わっていっている中でのイノベーションって、小さい歯車ではあっても、そこが勝手に回ると、徐々に他の歯車も回りだすようになって大きなムーブメントになっていくような感じではないかと思います。

石村: 小さな歯車を少しずつ回して大きな力にするというのが一番近道という気がしますね。健康記録やライフログ構想という話になると何か巨大な入れ物構想になってしまいがちですが、そうじゃないところから物事を考えていかないと実現できないんだろうなと。
杉山: そこにネットとか2.0的なものの役割があるんですね。

杉山氏

石村: そうですね。でもヘルスケアのデータとしてはまだ1.0なんです。1.0にもいってないかもしれない。ちゃんと集まっていないというのが実際で、健康な時のデータが、今どこにもとられていないんです。データが集まってくると、いろいろな分析ができる、そこが大事なわけで。ようやく特定保健指導のデータとか、健診のレセプトのデータというのを使って分析がはじまったというのが今年ぐらいでしょうか。
杉山: 日本のHealth2.0はまだ黎明期ですね。日本にはHealth2.0専業のベンチャーって何社あるのかと数えたら、本当に数えるほどしかなかった。米国の医療のSNSや医療に特化した検索エンジン等のHealth2.0ベンチャーはも少なく数えても数十社以上ありますし、関連企業を含めれば数百社はあるはずです。もちろん多ければいいというものではないですが(笑)。

CHS保健指導管理カタログ
Cincom ECMカタログ

石村: モチベーションがあって、2.0的なことを自ら始めようという人たちを集めるのが、杉山さんがやっていらっしゃるような活動だと思うんです。杉山さんは患者さんというところに焦点をおいてネットワークつながりというのをつくっているわけですけれど、そういうところを小さな歯車として最終的にネットワークとしてつなげる方が、健康記録やライフログを発展させるのには現実的な話なんじゃないかと思います。 ネットワークができれば解決する問題だという意識がまだ薄いのかなという感じがします。もちろんデータとして項目の標準化というのは重要な要素なんですが、あまりがちがちに標準化してみんな同じものを持ちましょうというのは不可能ですよね。
杉山: 医療というとわかりづらくて、できれば関わりたくない、あるいは関われないという遠い存在のような感じがありましたし、現在もありますよね。ただ、これからはそうではなくて好むと好まざるとに関わらず、もう生活の一部であるというところに、多くの方が気付き始めているのだと思います。私たちとしましては、健康・医療記録や管理がこういう風に実現できるんですよ、自分の経験や情報が他者の為、ひいては社会のためにもなるんですよ、と見せてあげられるようなサービスが大事だと思っています。今病気ではないという人であってもこれから100%病気になる。現時点だって皆健康のようでいて、調べれば何か病気だったりしますから、みんな患者とも言えますよね。 患者さん「中心の」医療と言われていますけれど、むしろ患者さんが「参加できる」医療を実現したいという、そういうステージにITを使っていきたいと考えています。本当は病気になる前から「参加する」のが一番なんですね。そのサービスを今後も提供していきたいです。

石村石村: 私たちがITで取り組んでいるのは特定保健指導の分野ですが、個人のヘルスデータを蓄積して病気の前兆を捉えられれば、もっと病気になったあとのQOLを向上させることにもつながるような気がしますね。
杉山: 私たちは、逆からやろうとしているところがあります。「闘病エコシステム」と言っているのですが、患者さんの闘病の情報を予防や早期診断に活かせないかと考えています。予防といっても自分のこととしてとらえられないと行動変えることは難しいですから、そのために今ある闘病情報やデータを使っていくことを企画しています。

石村: ITはコスト削減や効率の面で大きな支援ができると思っていますので、そこを特定保健指導というところから、もしかするともうちょっと重症化した方の支援にも広めていければと思っています。たとえばいまおっしゃった杉山さんの慢性疾患のSNSにうまくつながれるような形で何か指導をできるサイトができれば、それも一つのネットワークだと思うんですけれど。つぶやいたらそこで支援ができるという。

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杉山: ライフパレットは、コンテンツやメディアという視点で運営していますが、シンコムさんのデータベースという強みと馴染むのかもしれませんね。コミュニティのノウハウをそこにどのように使えるのかというテーマは大変おもしろいと思います。

石村: 今回インタビューをしている中で、杉山さんたちの世代から2.0になっていくんだなということをちょっと感じているんです。顧客視点に立ってということは、今の上の世代、40代50代ぐらいの世代というのはあまり身体から染み出てくるようにできないんです。そこが新しい世代の方にバトンタッチをすることによってできるのかなと。勇気をいただいたと思います。

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