1954年 兵庫県神戸市に生まれる。1980年 早稲田大学政経学部卒業、同年、 (株)フジテレビジョン入社、2009年退社。 2009年 国際医療福祉大学大学院教授に就任、2011年退職。2011年 神奈川県知事に就任。
石村: 診療情報のIT化がなかなか進まない理由の一つは日本の保険制度の中で誰がお金を出すのかという問題があります。あとは日本ですと大手3社が電子カルテのシステムを握りつつ、その他にも診療カルテは何百種類というくらいあるんです。フォーマットも違いますから、それをどうやって統一していくかという部分が全然整理されていないことですね。唯一特定保健指導については政府がフォーマットを決めました。それによって健診のデータは同じ形で集まっています。レセプトのデータも健康保健組合を通じて集まっています。相当数のデータが集まってきているのに利用できていないのが非常にもったいない話だなと思いますね。我々も海外の状況を研究していますが、国際医療福祉大学の武藤先生のお話ですと、アメリカではブルーボタンというのがあって、いつでも自分の診療情報をダウンロードできるという状況になっているんです。日本でも技術的には明日にでも実現できるところまでいっているんですけれど、だれがお金を出すのかというところと、誰がリーダーシップをとるのかというところが進んでいない状況です。
黒岩: いろいろな分野で神奈川モデルというのをつくっていきたいと思っていますから、医療情報のIT化というのは非常に大きなテーマです。
石村: いつでもお手伝いさせてください。特定保健指導のデータというのはマイカルテの軸にはなると思います。健診データが国で統一されましたから、それはいつでも自分で見ることのできる仕組みを計画している健保組合もあります。 それからレセプトという形で、どういう治療を受けてどういう薬をいつ飲んだかは分かる訳です。このようにデータができて、あとはどう集約するかというところまで進みましたから。
黒岩: 医療のIT化ということで、もう一つ私が考えていることがあります。私は、漢方と西洋医学を融合させることも大事だと思っています。政府の研究会で、漢方、鍼灸を活用した日本型医療創成という検討会の座長を努めました。その時に分かったのは、漢方と西洋医学の融合の上で難しい壁がある。それは何かというと、西洋医学に対して漢方はエビデンスがとりにくいということです。漢方は一人一人違った処方でしかも自然の由来の生薬を使うので、西洋医学的にエビデンスがとれないんです。西洋医学的なエビデンスは何かというと、同じ症状の人をA群、B群に分けて同じ薬を投与するグループと、偽薬を投与するグループで比べるということですが、これができないんです。ではエビデンスがないのかといったらそうではないので、どうしたらいいかということを検討していました。その壁を突破するのは情報です。膨大なデータを集めて、データマイニングしていけば、おのずと漢方における処方の効能、効果というのが見えて、漢方的なエビデンスがきっと見えてくるという、そんなことを考えました。
どこからでも自分の情報にアクセスでき、医療機関でも必要なときに共有ができる。そして情報全体として日本人の健康状態を把握することなどに利用できる、それがマイカルテの発想なんですが、我々もその仕組みづくりを始めています。全国という単位ではできませんので、ある特定の会員の方向けのサービスから始めています。私はよくマイカルテのお話をする際に、小さく始めてそれを広げて行くというお話をさせていただくのですが、県単位というのはちょうどいいと思っています。神奈川モデルはできると思います。
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黒岩: 我々は、ITの専門家ではありませんので、そういうこともいろいろ教えていただいて、“いのち輝くマグネット神奈川”を実現させたいと思っています。
石村: 今私たちは、行政のCRMということにも注目して、医療だけではなく地域包括支援センターにおける情報管理システムも構築しています。そういったことも含め、行政のなかでITにできる部分はIT化して効率を上げ、さらによい地域をつくっていっていただきたいなと思います。今日はありがとうございました。
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