2022年 国内DXのトレンドは「電子帳簿保存法」対応か?
国税庁ホームページでは、令和3年度税制改正による電子帳簿保存制度の見直しに伴い、令和3年7月に新たに電子帳簿保存法一問一答(令和4年1月1日以後保存等を開始する方)を整備されました。その中には、新たな問答集を作成した他、既存の問答の内容についてもメンテナンスがされていますが、今回、筆者がいちばん気になったのが、1)紙に印刷した書類の電子化と、2)取引情報が記載されたメール本文と添付ファイルの保管です。
具体的には、1)については改正後は、当該出力した書面等の保存措置が廃止され、当該出力した書面等は、保存書類(国税関係書類以外の書類)として取り扱わないこととされました。
2)については、電子メール本文に取引情報が記載されている場合は当該電子メールを保存する必要がありますが、電子メールの添付ファイルにより授受された取引情報(領収書等)については当該添付ファイルのみを保存しておけばよいことになります。つまり、メール本文はともかく、「メールに添付されたファイルの保存」が電子帳簿保存制度の対象となったということです。
DX化が叫ばれながらも、なかなかその実現に進められなかった企業にとっては、この導入ハードルが下がったとは言え、半ば強制的(ペナルティーが有るので・・・)に「紙管理から電子帳簿保存への移行」にどのように対応、対処していけば良いのか、それが電子帳簿保存の担当部門である経理、財務担当者の大きな課題となっているのではないでしょうか?
電子帳簿保存法対応への課題
では、あと、4ヶ月後に開始されるこの電子帳簿保存法への対応をするためにはどのようなITソリューションがあるのでしょうか?想定される課題の整理とその対応策からITソリューションを検討してみたいと思います。
- 課題1:対象業務の洗い出しと今後対象となる電子ファイルの棚卸し
- 課題2:メール本文、添付ファイルの保管区分の定義
- 課題3:ハードルが下がったものの、当該電子ファイルの検索機能
まず、課題1ですが、ITソリューションを検討する上で、必要不可欠な作業になります。日常的にその業務を担当されていて方がいれば、その方に現状分析をお願いすることがもっとも近道であろうかと思われます。また、電子帳簿保存のためのITソリューションを導入した時には、その担当者の方が、これまで、添付ファイルとして送られていた電子ファルの印刷業務から解放されて、その代わりに電子帳簿の保存業務を担ってもらうこともなることでしょう。
課題2については、課題1のように担当者による主観による区分はたいへん難しいものと思われますので、対象となる受信メールの一括保存が良いと思われます。ただし、この一括保管で注意しなくてはならないのは、メール本文と添付ファイルの関連性の保持はするものの、仕分けとしては、この後の課題でもある検索にも関連するため、全てのメールと添付ファイルを一括保存するのではなく(振る舞いとしてはそのように見れるが)、ファイルはその文書カテゴリ(請求書、見積書などの区分)で分類され、また、取引き先などによって、フォルダやプロパティ(メタ的な)などで区別されることがその後の処理なども考慮すると望ましいと思われます。
課題3については、まず、今回ハードルが下がったと言った検索要件ですが、売上高1000万円以下の法人についてはそもそも検索機能自体が要求されませんが、それ以上となると次の検索項目については気にしておく(検索できるようにしておく)必要があります。
なお、検索として必要な項目(詳細は下記の参照先情報をご覧ください)は緩和されて以下の3点となっています。
- 取引年月日
- 取引金額
- 取引先(名)
課題解決のためのITソリューション
ここでは、これまで挙げている課題に対応するITソリューションについて考えてみたいと思います。まず、課題1の対象となるファイルについてはですが、これまで、メールなどで送られてきている添付ファイルは実はメール本文とは関係なく、ファイル自体での保管となっていたと思います。また、Gmailやoutlookのようなメーラーの中での保管となると、余計な情報が散在しているため、この後にも出てくる検索のことも考慮すると取引情報に関わるものはそうでないものと分別しておきたい(取引情報管理のためのサブシステムに保管するなどの対処しておくなど)と考えられます。取引情報管理のための新たな社内サブシステムの機能要件を挙げてみると、以下のようになるのではないでしょうか?
- メーラーとの連携(メール本文と添付ファイルの保管)
- 添付ファイルの振り分け(フォルダに移動、または検索キーとなるタグ付けなど)
- 検索機能の提供(ファイルはもちろん、フォルダとタグ検索機能)
これらの機能に対応するITソリューションとしては、以下のようなものが考えられます。
1.メール連携可能なファイル共有基盤:Slack
情報共有基盤サービス(コミュニケーション・ツール)として知られているものでslackがあります。slackはAPIを公開することでたくさんのサービスとの連携が可能となっています。もちろん、Gmailなどのメーラーとの連携も可能でありながら、コスト的には魅力的なフリーミアムの形態を取っていて、基本的な機能は「フリー」プランとして無料で利用できます。有料プランを利用しないとファイル容量の制限(フリープランで、ワークスペース全体で最大 5GB まで)があるため、自社の容量と相談してプランを決めることが必要です。有料プランとしては、「プロ」と「ビジネスプラス」が用意されています。
また、自社の取引情報をこのようなサービスに置くことに慎重な企業があることも否めないところです。DX化が叫ばれている現在でもこのような外資系サービスに抵抗感をお持ちの企業が今回の電子帳簿保存法対応から社内体質の改善を計ることも必要なのかもしれません。
2.Officeツールからの自然な流れで電子帳簿保存を実現:OnDrive
現在、日本でも多くの企業が採用している「Office365」にはオンラインストレージとして知られているOnDriveがあります。Officeファミリーということでメールとの連携は可能であり、Microsoftユーザにとっては一考すべき選択肢の一つになると思われます。
実はこのOnDriveは、Microsoft SharePoint上の共有ドキュメントライブラリをローカル フォルダーと同期するためのアプリケーションであるので、メーラーであるoutlookとOnDrive、そして、ファイルの振り分け先としてのSharePointという最強の組み合わせで電子帳簿保存を実現することが可能と思われます。
ただし、広く知られていることでありますが、Google同様に、OnDriveに保管されたファイルの内容はMicrosft社によって検閲されており(OneDrive for Businessは除く)、社内の取引情報を外部からの閲覧可能なサービスに置くことに慎重になる一般ユーザも少なくないかもしれません。
3.Gメールからの自然な流れで電子帳簿保存を実現:Google One
2004年からフリーのメールサービスとして多くのユーザを持つGmailですが、日本国内では、企業でのエンタープライズ向けサービスとして知られている「Google Workspace」の利用が広まっています。これには、Gmail、Google ドライブ、Google ハングアウト、Google カレンダーおよびGoogle ドキュメントなど、Googleのウェブアプリケーションが含まれています。Google ドライブもビジネスユーザー向けの機能が用意されていますが、Gmailを利用していれば、Gmail で送受信したメッセージにファイルが添付されていた場合、添付ファイルを Gmail の画面から直接 Google ドライブに保存することが可能となっていますので、メールに添付された取引情報関連のファイルの保管が最大15GBの容量まで無料で利用可能となります。
ただし、問題としては、Googleドライブの既定容量が15GBと少ないので(容量を増やすことは可能)、30TBまでの契約プランがあるGoogle One(30TBで月額:19千円)が必要ではないかということです。また、これまでご紹介したように、自社の取引情報を外部のストレージに保管することを好まない企業ユーザにとってはそもそもその選択肢にはならない可能性が高いでしょう。
4.自前のストレージで電子帳簿保存を実現:Cincom ECM
Cincom ECM(シンコム・エンタープライズ・コンテンツ・マネジメント)のその名の通り、自社内のあらゆる電子ファイル(コンテンツ)を管理する目的で設計・開発されたITソリューションです。どのようなITソリューションかと言うと、これまで記述したようなストレージ・サービスと同様な機能を自社占有でクラウド、オンプレミス環境で提供できるものです。
Cincom ECMは、メール(サービス)との連携についても、MS outlookとはOfficeアドインとの連携が標準でサポートされており、さらに、Gmailなどの一般的なメールサービスともIMAP(メールの受信方法を示すもの)を利用した連携が可能です。このIMAPですが、POPとの大きな違いは、メールデータはパソコンにダウンロードや保存をしないメール連携方法になりますので、利用者各自のパソコンにダウンロードするかたちを取らないため、電子帳簿保存における取引情報の漏洩リスクの視点からも取引情報管理に向いたメール受信方法となっています。そのため、自社のメール環境に合わせた電子帳簿保存のためのサブシステム(既存のメールシステム、サービスとの連携が可能な下位システム)として期待できるITソリューションとしてご紹介しています。
また、検索機能ですが、メール本文、添付ファイル(PDF、Officeファイルなど)に対してキーワード検索とタグ検索を提供しています。
そのほか、ワークフロー機能が標準実装されていますので、ファイル名やタグ情報(取引年月日、取引金額、取引先)などをキーにしたフォルダ振り分けなど自社の運用ルールに合わせた取引情報管理の業務設計ができることも出来合いの各種ストレージ・サービスとは一線を画するところかもしれません。
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