リレーインタビュー「ナレッジマネジメント+医療福祉+IT:第2章 」

リレーインタビュー「ナレッジマネジメント+医療福祉+IT:第2章 」

梅本勝博(うめもとかつひろ)氏

北陸先端科学技術大学院大学 教授

(国立大学法人)北陸先端科学技術大学院大学 知識科学研究科・社会知識領域教授 1975年九州大学経済学部卒業後、1978年~1985年に一橋大学商学部助手を務めた後、1997年ジョージ・ワシントン大学より博士号取得。同年より北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科助教授、2004年より現職。医療、福祉、教育、行政など非営利公共セクターにおけるナレッジマネジメントの研究を行っている。

著書に『医療・福祉のナレッジ・マネジメント』(2003共著)、翻訳に『知識創造企業』(1996)、『プロジェクト・ナレッジ・マネジメント-知識共有の実践手法』(2009)などがある。

2.医療福祉分野のナレッジマネジメント

石村 IT産業自体がデータ・情報・知識を扱う業界ですので、ナレッジマネジメントとは非常に近いところにあります。ITを自分の会社に取り入れることで、よいシステムをつくる力になったり、モノづくりの中で培ってきたものを次の世代に伝えていったりできるというのも似ています。ナレッジマネジメントを学べばITの会社として一歩抜けることができるのではないか、というのが私の思いだったのです。そんな思いでここ数年、特定保健指導に関わって医療の世界をかかわってみると、やらなければならないことが山ほどありました。先生は、2003年に『医療福祉のナレッジ・マネジメント』という本を書かれましたが、なぜ医療分野に興味を持たれたのですか?
梅本 医療ほど知的に高度な人間活動は他にないと言ってもよいほどに、この分野は知識と関係が深い分野ですよね。考えてみると、病院ほど国家資格を持った人がたくさん働いている組織はあまりないと思います。医療や病院にナレッジマネジメントが不可欠だと思うようになった頃、不思議ですが、2002年から03年にかけて、医療の方からもナレッジマネジメントに関心を持ち始めました。先端的な経営の理論と実践であるナレッジマネジメントを学ぼうということで、医療看護関連の雑誌でも特集を組まれました。医療者側がナレッジマネジメントの必要性を自覚し始めた時期でした。

CHS保健指導管理カタログ
Cincom ECMカタログ

梅本氏石村 多様な専門家の方々が非常に多い医療の分野で、個人が持っている経験知がものすごくある。その共有化のレベルをもっと上げていかないといけないと思います。そのためには、本当に人間にしかできない部分に人が集中できて、人でなくてもできる分野はITに任せるというのは効率化の一つの線引きだと思います。人のケアが仕事の看護師さんが事務処理に追われるのはもったいないですよね。これまではタイピングが一つのハードルだったわけですが、iPadやiPhoneなどが入ってくることによって、ハードルは低くなります。ITリテラシーが上がることで、情報が集めやすくなり、事務処理的な仕事から人が解放され、質の高い医療が提供できるようになっていきます。
梅本 医療介護というのは非常に人間的なサービスです。だからこそITを使って効率化しないと、患者さんに寄り添う時間は増やせません。どんな組織も効率的でなければならないし、無駄を省かなければならない。これは当然の価値であって、べつに金儲けと結びついているわけではないのです。ナレッジマネジメントあるいは知識という視点で見ると、いままで見えてこなかったことが見えてきます。特に医療という高度な知識をもった人たちが働いている組織なら、なおさらナレッジマネジメントが必要不可欠ですね。

石村 そうですね。病院はある意味、非営利組織ともいえますが、先生は公共セクターへのナレッジマネジメントの導入を研究なさっていますよね。
梅本 もともと私は企業経営が専門ではなくて、博士号は公共政策論で取ったので、非営利・公共セクターに関心があるのです。もともと企業経営で始まったナレッジマネジメントを非営利公共セクターに応用展開したらどうなるかということを研究しています。

石村 私たちもIT企業の立場でお手伝いさせていただいていますけれど、自治体による虐待防止の取り組みにナレッジマネジメントの手法を取り入れる実践もなさっていますね。

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梅本 ある自治体から依頼がありまして、実践に取り組んでいます。それは特に高齢者や児童、障害者の虐待という問題に関してですが、地方公務員は2~3年で入れ替わるため、ようやく身につけた経験、虐待の対処の仕方などのノウハウを蓄積しても、さあこれからという時に次の部署へ異動してしまうのです。この問題をどうしたらいいのかと悩んでおられたのですが、ナレッジマネジメントの問題だということに気づかれて、私に依頼がきたというわけです。虐待対策に関係している人たちのノウハウをどう共有しようかということですが、今はナレッジマネジメントを利用した研修プログラムを開発しています。さらにITの力を借りて、これまで培った膨大な知識を蓄積して共有する仕組みを作っているところです。

石村先生のお話を聞いて、改めてITはナレッジマネジメントの流れの中の一部にあるいうことがすごく納得できました。 ナレッジマネジメント=ITと思われているところがありますけれど、ITはナレッジマネジメントにとって重要だがその一部にしかすぎないので、そこをうまく説明できないといけないですね。それが自分の使命だと思っています。

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