リレーインタビュー「ナレッジマネジメント+医療福祉+IT:第1章 」

リレーインタビュー「ナレッジマネジメント+医療福祉+IT:第1章 」

梅本勝博(うめもとかつひろ)氏

北陸先端科学技術大学院大学 教授

(国立大学法人)北陸先端科学技術大学院大学 知識科学研究科・社会知識領域教授 1975年九州大学経済学部卒業後、1978年~1985年に一橋大学商学部助手を務めた後、1997年ジョージ・ワシントン大学より博士号取得。同年より北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科助教授、2004年より現職。医療、福祉、教育、行政など非営利公共セクターにおけるナレッジマネジメントの研究を行っている。

著書に『医療・福祉のナレッジ・マネジメント』(2003共著)、翻訳に『知識創造企業』(1996)、『プロジェクト・ナレッジ・マネジメント-知識共有の実践手法』(2009)などがある。

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1. ナレッジマネジメントの起源は日本だった

梅本氏

石村 梅本先生、今日はようこそお越し下さいました。先生の研究室にお世話になってもう6年ですね。私はMOT(Management of Technology)を学ぶために北陸先端科学技術大学院大学に入学し、そこで先生に出会って、初めてナレッジマネジメントを学ばせていただきましたが、梅本先生はそもそもどうしてナレッジマネジメントを研究なさっているのですか?一度じっくりお伺いしたいと前々から思っていました。
梅本 1992年頃、博士論文研究のデータを収集するために、アメリカ留学から一時帰国したのですが、ちょうどその頃一橋大学の野中郁次郎先生と竹内広高先生が1995年に出版されることになる本The Knowledge-Creating Companyのプロジェクトに取り組んでおられて、それを手伝うことになりました。その本は、私が日本語に翻訳し96年に『知識創造企業』として出版されました。これがナレッジマネジメントに関わることになったきっかけですね。ナレッジマネジメントという言葉は英語ですけれど、この英語の本をきっかけにナレッジマネジメント運動が始まったんですよ。

石村 『知的創造企業』というのは日本企業が強かった時代に、なぜ強かったのか、ということに触れられていました。日本起業が強かった理由にチームワークということも言われていましたが、その背景には知識創造というものがあると。モノづくりの強さの背景には知識創造があるのだということでした。
梅本 ナレッジマネジメントという言葉は今では定着していますけれど、実を言うと野中先生の考えとは違っています。もともとは「知識創造」を強調していたのに、アメリカから逆輸入という形で入ってきたナレッジマネジメントは、言葉で表現された「形式知」の「共有」が強調されています。それはともかく、ではナレッジマネジメントの基礎となる組織的知識創造理論がなぜ日本から発信されたのか。それは、その理論の中核にある「暗黙知」(※)が日本人にとってわかりやすいコンセプトであったことが大きな理由です。「以心伝心」という言葉もあるように、日本人には言葉にしなくてもわかり合えるという感覚があります。言語化された形式知だけを知識と考える傾向が強いアメリカでは、暗黙知から形式知へ、形式知から暗黙知への変換によって組織的知識創造を説明するSECIモデル(※)は出てこなかったと思います。

石村石村 私が初めてナレッジマネジメントを学んだ時に衝撃を受けたのは、これからは産業社会から知識社会になる、と言われたことです。それで目がさめたようにナレッジマネジメントに引き込まれました。野中先生のSECIモデルに触れた時には、人間というのは自分で体験して、しばらくすると言葉に出せるようになり、それを他の人とコミュニケーションすると、新しい意見が返ってきて、それをまた自分の経験に活かして・・・というように輪になっているのだな、と思いました。それまでも実感としてあったことを、アカデミックにきっちり説明されたので、すんなり入ってきました。
梅本 ナレッジマネジメントの実践を公言しているかどうかは別として、大きな会社ではグループウエアやMLで情報共有は当たり前にやっています。どこでも実質的にはナレッジマネジメントを行っているということです。知識を創造したり共有したりというのは、仕事をしている所ではやるのは当たり前で、これはナレッジマネジメントという言葉が出る前から普通のことだったのです。そのように知識の視点から仕事を見るか見ないかです。 みなさんは仕事の中で報告書やプレゼンスライドなどで知識を創造しているのです。他の人の知識(例えば、すぐれたプレゼンのノウハウ)を共有することが仕事のプロセスに埋め込まれていれば、非常に効率が上がります。

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石村 経験を言葉にして誰かに使ってもらおうという気持ちになれば、次の創造につなげることもできますね。そうなることでレベルが上がって行くのだろうと考えていますが、一般企業でもまだまだそのレベルまで行っていないところがありますね。自分たちが知識を創っていて、それを共有し活用しなければならないと気づいていない企業が多いのではないでしょうか。
梅本 ナレッジマネジメントを最初に意識的にやったのがコンサルティング業界です。問題分析やその解決案という知識を創造するのが彼らの仕事ですから。でもナレッジマネジメントは意識しないでやれるようになるというのが一番の理想です。意識してやっている間はまだまだレベルが低い。無意識のうちに知識を共有し活用する、すなわちナレッジマネジメント・システムが業務プロセスに埋め込まれていること、言い換えれば、ナレッジマネジメント・システムがなければ仕事ができないという仕組みになっている状態が一番の理想です。

第2章「医療福祉分野のナレッジマネジメントへ続く

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