リレーインタビュー「メディカル+IT:第2章」

リレーインタビュー「メディカル+IT:第2章」

小林孝弘(こばやしたかひろ)氏

小原メディカルサービス 代表取締役社長

1979年生まれ。2004年3月 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。学生時代より同社での医療情報システム開発に従事。独自の電子カルテ・オーダリング・医事会計システムOmega1の開発、導入に携わる。その後2年間商社に勤務したのち復帰、代表就任。現在、国際医療福祉大学大学院の博士課程に在籍中。同社は、2001年11月、医療法人財団圭友会小原病院の医療事務、情報システム、清掃部門が独立し設立。

2. これからの新しい医療のITとは

石村: 小林さんが現在開発なさっているシステムはどのようなものですか?
小林: 事務方の仕事で非常に比重が大きいのは、国の規制に自分たちの施設が合致しているかどうか常に確認することです。もし人員の面で不足が生じるのであれば確保しなければなりません。ですから不足が生じるようなタイミングを予見して先回りすることが今の私の関心ごとです。これらは実際の作業量はそれほどではないですが、少なくともうちは人員の状況を把握するにはその都度調査をしなければなりません。しかしそれでは判断が遅れます。これからの時代は、それぞれの医療機関が医療の中でどこで力を発揮していくかというのを考えなくてはいけないと思うんです。連携連携と言われる中で、その連携の輪に入れない中小の医療機関というのは淘汰されると思っています。ですからこういうものを常日頃把握して、自分の立場を確認することにITを利用しようとしています。これはけっこう大変な話で、すべてがシステムに載るものばかりではなくて、どこまでやるかというところが難しいのですが、常にダッシュボードのようになっていて、看護師さんの人員配置基準これくらいで、うちはこれくらいですとか、安全圏はここですとか。細かなことなんですけれど、本当に人海戦術の職場なのでそういうことがすぐに見えるシステムが必要なんですね。

石村: 企業ですと、すでに年月をかけて形にしてきていると思うんですが、まだ医療の世界はできていない。それは要素が複雑だからなんですね。
小林: このシステムによって機会損失がなくなるというのが大きいと思うんです。危険な要素がある節目を知るのはとても重要なことです。すごく小さな話でいえば、本来今月の運営委員会で話さなければならなかったことがあとで分かって大変なことになるとか。看護配置でもこの期間だけは割り込んでいいというのがあるんですが、そういうのがきちんと把握できていないと、うっかりその期間が過ぎて入院基本料が半額に転落してしまったりということもありますので。

石村: 病院の事務としてもITは大変重要なものですが、対患者さんとしては、何か新しく開発されているシステムはあるのでしょうか?

CHS保健指導管理カタログ
Cincom ECMカタログ

小林氏小林: 小原病院は療養病院ですから、ご高齢の患者さんで重症度がわりと高く、自分の意志をはっきり表現できない方もいらっしゃいます。こういう方々の楽しみというのはご家族とのふれあいだと思うんです。私も折に触れて病棟へ行きますが、ご家族が周りにいらっしゃる患者さんと、そうでない患者さんは雰囲気が違うんですね。私たちはITができるので、ここにいる患者さんに、ITの力でご家族とのふれあいを実感してもらうということができないかなと考えています。 その背景として、どんどんコストカットの流れが強くなっているということもあります。その中で事務方というのはお金をつくる舞台ではなくてバックヤードというか、コストセンターと認識されるわけなんです。だからできるだけカットしていきましょうという流れになりやすいんですけれど、逆にこの人たちをうまく活かすことができないかと。事務方の人でも古参の人はずっと医療政策をつぶさに見てきてよく知っている。当然患者さんからも受付でよく顔を知られている。こういう人を患者さんのためにもっと活かすようにできないかということを考えています。ここでITというものが使えるのではないかと考えています。これは私のひとつの目標ですが、療養病院に入院していらっしゃる患者さんとご家族の結びつきを強くするためのITに関する仕事を事務方がやればいいんじゃないかと思うんですね。

石村: ご家族とのふれあいもそうですけれど、たとえば近所の梅の花は咲いたかなとか気になることってありますね。そういうものを見られるというのもあったらいいですね。ビデオレターじゃないですけれどね。
小林: 距離をなくすというか、離れている人たちを同じところにいるかのように見せることはITを使ってできることなので、高齢の方々が病院や施設に入るという中ですごく生きるのではないかと思いますね。

石村: アメリカのシンコム本社が関わっている事業なのですが、アメディシスという会社が、在宅看護のコールセンターを展開しているのですが、まさにここが何を考えているかというと、高齢でも病気をお持ちでも、自宅でご家族が近くにいるというのが人間の生活にとっては最も幸せなことだということなんですね。そうだとすると軽症の方、または病院にどうしてもいなければならない方以外は在宅で療養ができればそれが一番病気の方にとって幸せなことだという、そういう理念のもとに、看護師によるコールセンターが運営されています。そのコールセンターで薬を飲む時間や健康状態の確認をしているんです。コールセンターというと電話を受け付けるイメージですが、能動的に電話をかけています。医師が必要であれば往診していただくとか、様々なケアをプラスαとして提供されているんですね。今アメリカでは急成長を遂げています。ご存知のとおりアメリカは医療費がものすごく高いので、なるべく入院を避けたいという方向性ですから、そういう中でうまれてきたとも考えられるのですが、基本的にはご家族とともにいる普段の生活習慣を持続できるということが患者さんのQOLにつながるという理念が根底にあります。そういう意味でも小林さんが今考えていらっしゃる理念と同じなのかなと思います。

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小林: そうですね。これはおそらくうちの病院に限ったことではないと思いますが、どうしても療養病院は在院日数が長くなるんです。これを減らしてアメディシスさんがやられているように在宅でサービスを受けるということをやれば患者さんにとってはいいと思うんですが、なかなかそういうインセンティブが働かないという問題点を感じています。当然日本にも在宅ケアのサービスはいろいろあると思うんですが、まだインフラが完全に整っていないということです。日本でもNP(ナースプラクティショナー)などが一般的になって、在宅においても医療がきちんと受けられるというようなものが整ってくると、これは一つ大きなインセンティブになっていいのかなと思います。長い歴史のある社会的入院という根強い問題もありますけれど、一つの解決のきっかけになるのではないかなという気がいたしました。

石村: 小原メディカルサービスさんが持っているノウハウをもっと周りに広げて、そのノウハウで自宅にいる人たちにとってもプラスαがあるようにしていただきたいと思っています。そこにITが必ず役立ちます。

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