リレーインタビュー「患者+IT:第1章」
杉山博幸(すぎやまひろゆき)氏
株式会社メディエイド 代表取締役
1995年慶應義塾大学法学部法律学科卒。1994年南カリフォルニア大学大学院コミュニケーション・経営学修士課程修了。
プライス・ウォーターハウス・コンサルタント(株)(現日本IBM㈱)、マイクロソフト(株)、慶應義塾(医学部・大学病院)、(株)ケアネット等を経て現職。
1. 大事なのはゆるいつながり
石村: 今日はありがとうございます。杉山さんの自己紹介もかねて、杉山さんの運営なさっている患者コミュニティサイト「ライフパレット」についてご紹介いただけますか?
杉山: 基本的な機能としては闘病記やブログ、患者さん同士のQ&Aがあるんですが、記事を中心として患者さん同士が繋がれるような仕組みになっています。つまり、医療分野でのオンラインコミュニティです。自分の病気に関すること、生活に関することなどの情報を共有できて、また発信できて人とつながれる場であり、病気と一緒に生きていくという人のためのサイトです。 アメリカで大学院に通っていた頃、米国の病院を見てすごく驚いたのが、ボランティアの人や、患者会の存在の大きさです。当時、90年代はじめでしたが、患者同士が支え合うというイメージが自分になかったので、非常に衝撃的でした。帰国後は大学病院で経営企画やITと医療に関わる仕事をさせていただきましたが、やはり患者さんというのが私にとってのキーワードで、患者さん支援にITが役立つはずだと2005年に起業しました。起業当時、もう一度患者中心に繋ぎ直す試みをしないと医療は臨界点まできてしまっていると感じていました。その為には既存の一般のWebサイトやSNSではないだろうと考えていました。事業構想を煮詰めていくのですが、やはり最初は、絶対に事業として成り立たないと言われました。でもその困難なチャレンジに挑戦することは、社会的にもライフワークとしても意味の有ることだと信じてライフパレットを始めました。
石村: 一般的なSNSでは、あるカテゴリの情報を集めるのは非常に難しいですね。単にコミュニケーションだけならいいんですが。特に医療の話ですから、従来の一般のSNSとは違う仕組みが必要ですよね。実際に見せていただいて、これはすごいなと。みなさんここから力をもらうんだろうなというところはすごく分かりました。
杉山: ありがとうございます。病気というのはセンシティブで、人生が変わってしまうような出来事ですよね。患者会をやっている方も非常に大きな熱意があります。そのあたりをインターネット上で結んでいくことに腐心しまして、創業から開始まであっという間に月日が過ぎてしまいました。患者さんに実際にヒアリングしながらやっていたのですが、ある日、患者さんから、患者だと思って遠慮するなと。そんなの飲みにいかないと患者の本音なんか分からないだろ、と言っていただいたりして、「あ、いいんですか」って(笑)。お叱りを受けたり褒められたりしながら設計していきました。医療のトーンで患者起点でつながっていく、自分の情報を出していける場が絶対に必要だということは、ずっとその時から信じていて、それでオープンまでこぎ着けました。
石村: やはりお医者様に治していただくという医療から、自分たちが参加し、情報を発信し、また自分たちがほしい情報を得ていくという流れにかわってきているんですね。 ネットの双方向のやりとりというと、荒れないのかなというのが気になるところですが、ライフパレットはとてもやさしい、いい雰囲気ですよね。
杉山: 日本で初めての試みでしたから、24時間365日、今でも常にフォローしています。場合によってはボランティアの医師の方にも読んでいただいて、介入してもらうようなことにしています。そのやり方をもし一歩間違っていたら、あるいはもうコミュニティも破綻していたかもしれません。そもそも、当初から患者会の方たちにも参加してもらい、温かい真面目な感じにしたいのでということをご理解いただいて、徐々にそういう方たちのネットワークになっていったので、現在では、誹謗中傷などの書き込みはほぼありません。
石村: もうひとつ、登録制ということもありますよね。そこにライフパレットさんのメッセージが載っていますから。それを見てまず登録しようかどうしようかという時に、第一段階のスクリーニングがあるんでしょうね。見えないところでの気遣いが、あのトーンというか、雰囲気に表れているのですね。ネットならではのご苦労も多かったと思いますが、逆にネットだからこそ実現できたという部分も大きいですよね。
杉山: 病気を抱えている方同士が支え合ったり、生きていく上でのノウハウを交換したりする場として、患者会というのはとても重要だと思っています。しかし、患者会自体が都市部に偏在するというところをネットなら患者会のない地方の方も容易に参加できる利点があります。 また、人は病気になったからといって、必ずしもずっと病気のことを考えているわけではありません。時にはリアルの部分で、同じ体験をした人と濃くつながりたいと思いながらも日常の中では、ゆるくつながっていたいというニーズがあります。それがとても難しく、でも重要だと思うのです。それがネットだからできることといってもいいのかもしれないですね。
石村: 本人が能動的に動く回数、頻度が高ければつながりはより濃くなるし、頻度が低ければちょっと離れることもできる。確かにそれを自分で選択できる、選択の幅がありますね
杉山: ライフパレット内のコミュニティによっては、新しく入った人に歓迎の「あいさつ」をしたり、落ち込んでるのかなと感じると、すっとメッセージを書き込んだりします。でもずっとベタベタしているわけでもない。そういう支え方は患者さんご自身がよく知っていますね。寄り添うことって、ネットの真逆だというイメージがありますよね。でもネットでもできるんだということは、患者さんが教えてくれた多くの大事なことの中の一つです。本当に会って寄り添うのが一番なのかもしれませんが、今、落ち込んでいるこの時に、夜中に電話でもなくて寄り添うことは、現実的になかなかできませんよね。
石村: 発信しなくてもそこに存在できて、欠席とかいうこともない。そのゆるいつながりのお手伝いを、ネットならできますね。
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杉山: 今はがんを中心に取り組んでいますが、今後は難病や希少疾病にも取り組んでいこうとしています。患者さんやご家族に情報格差がありますし、つながりたい想いをネットで解決してもらいたいというニーズが大変大きいです。SNSの参加者も、今は患者さんだけですが、看護師さんやお医者さんにも入っていただいて、コミュニティを拡張していこうとしているところです。
第2章「小さな歯車から、2.0へのイノベーション」へ続く
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