リレートーク「看護をつなぐICT」第2章

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小笠原映子氏

平成 5年に聖路加看護大学看護学部看護学科卒業後、聖路加国際病院内科病棟、訪問看護科に勤務。その後平成12年より医療法人樹心会角田病院で教育担当師長等を務めたのち大学院へ。平成17年群馬大学大学院医学系研究科博士前期課程修了、平成24年 9月には群馬大学大学院保健学研究科博士後期課程修了(群馬大学大学院保健学研究科保健学博士)。 大学院と並行し平成17年4月より群馬県総務局総務事務センターに保健師として勤務。平成19年末からは群馬大学医学部保健学科(助教)に。平成22年4月より群馬パース大学保健科学部看護学科に勤務(講師)。平成25年4月より同学科准教授。

2. 現場のニーズから始まったICTを用いた介入研究

石村: 教育現場のお話をしてきましたが、実際の訪問看護の中でも何かもっと「こうなっていたらいいな」みたいなものはありますでしょうか。
小笠原: 訪問看護のGood Practiceを集められるような場があって、困った時にアクセスして参考にして、うまくいったら自分もそこにアップするというコミュニケーションがとれるといいですね。 在宅看護の中でもいろいろな分野があるんですが、それぞれを専門としている人に、そこで質問ができて、なんらかの回答が得られるという仕組みもほしいです。在宅看護って、患者さんやご家族とすごく近いので、やろうと思えばどんどんできてしまう。実はそれで燃え尽きてしまう方も多いんです。自分の経験を誰かに伝えることで元気になれるとか、そんな仕組みがあるといいのかなと。

小笠原氏

石村: 企業の中にはGood Practiceの知識バンクのような仕組みがあって、それを常に最新のものにしていくために、ナレッジワーカーたちがどんどんバンクに入れて更新しています。その時にエキスパート集団にアクセスできるという道が必要ですよね。それがピア・アシストとか、エキスパート・アシストと呼ばれる仕組みですが、仲間同士やエキスパート集団の人たちが、知識のアシストをするんです。この点は企業でもまだ苦労していると思います。 小笠原先生が訪問看護の実践をしていらした時に、成功事例を集めておいたことはおありですか?
小笠原: 私自身現場にいたときは、日々の看護をこなすのが精一杯で何かをまとめるということができなかったんです。なので今、教育の立場から、現場でできなかったことをサポートできればと思いながらフィールドワークをしているという状況です。

石村: やはり目の前に困っている人、病気の人がいらっしゃると、まとめる時間も惜しんで看護実践をしてしまいますよね。ベテランの方から新人への教育、情報共有も、現場ではご苦労なさっているのではないでしょうか。
小笠原: そうですね。看護師って経験豊かな方は暗黙知をたくさん持っているんです。でも在宅看護は一人で訪問して提供することが多いので、新人が経験ある看護師さんのスキルを盗めるような機会が少ないんですね。 そういう悩みはみんな抱えていると思います。そんなこともあって昨年、ICTを用い写真やテキストを組み合わせた情報提供書をつくり、その患者さんを担当している看護師間でケアの情報を共有するという目的で、介入研究をしました。

石村: それを新人さんも見ることで勉強ができると。
小笠原: はい。担当以外の看護師も見ることができる分かりやすい情報共有のツールがあれば、ベテランのスキルを新人や他の人たちが学ぶことができるのではないかなと常々考えていまして、そんなときに現場の訪問看護師さんから相談を受けたことが実際に介入研究を始めるきっかけでした。みなさん細かいケアの方法を申し送るのに紙に手書きで絵や図を入れたりして苦労されていたんです。「洗面所のどこに歯ブラシがあって歯磨きの順番はこうで」というふうに。苦労して作っても状態の変化のはやい療養者さんの場合、それに応じて内容を変更しなければいけなかったり。 そこで、写真とテキストを組み合わせたケア情報共有ツールを開発し、パイロットスタディを行いました。

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石村: さまざまな機械類の使い方も写真や動画を使ったりすると、文字を一生懸命読んでもわからなかったものが、ずいぶん分かるようになりますよね。それにデータとして残るということは再利用につながるんです。そこでまた分析されたものが次の知識を生み出すわけですよね。
小笠原: ケアの方法をこうしてまとめていくと、膨大な情報の中にある標準的な部分と、患者さんごとに個別的な部分が整理されていくことがわかりました。標準的な部分は看護師という専門職だったら誰でも知っていることで、個別的な部分は担当された看護師さんの経験知だったりいろんなものが含まれているので、そこを整理することで新人さんでも受け取りやすいというか、吸収しやすい形になっていくのかなと。整理されているから理解できるんですね。

石村: 構造化データと、非構造化データでいうと、ケアの方法などは非構造化データが圧倒的であって、それをどう整理して伝えるかというのが大きな課題だったわけですね。一般企業でも、やりとりする情報はメールなどの非構造化データが8割で、それをどう整理していくかということが課題になっています。そういう意味でも、すばらしい成果ですよね。

第3章:「ICT導入の障壁は年齢ではなかった」へ続く


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